「キミはもうすぐ死ぬの。誰も看取ることなく」
 少女は死神だった。
 彼女の言葉に、私は答える術を持たなかった。
 空気が振動を拒絶し、床に臥すだけの私を少女は面白そうに見つめている。
 漠然と考える。
 死神とは、死とは何か、友とは何か。私は、一体誰なのか。
 幸い、夢なら痛みも無ければ思考の邪魔をする雑音も既に聞こえない。
 考える時間はたっぷりとある。
 でも、やっぱり少しだけ、願ってしまう。
 遠い昔に置いてきた、たったひとつの甘い幻想。
「キミは死ぬ。これは確立した確率。運命だよ」
 瞳に映るのは、吐き気のするほどに悪趣味な灰色の長髪と、漆黒のドレス。
 絵に描いたような西洋人形の姿。
「キミは、運命の環から外れた。だから、私が来たの。でもさ、」
 鈴の音のような、凛と響き渡る声は、
 嘲るでもなく、罵るでもなく、ただ、哀れんでいた。
 哀れむ? 誰を。
 私を? 何で。
「キミさ、やり残したや、思い残しってない? 何でもいいから」
 思い残したこと?
 そんなもの、たった一つしかない。
 今まで一度だって叶わなかった願い。
 神様の気まぐれか所為か、死神の気まぐれか。
 淡く、空気が振動した。そんな気がした。
 恐らく、それが彼女と私の人生で最初の出会いで、最初の会話だったのだろう。
 彼女はゆっくりと愛らしい唇を吊り上げ、もう呼ばれることの無い私の名を呼んだ。
 そして、その魔法の呪文を口にした。 「もしも、キミがやり直せるとしたら、キミは何をやり直す?」
 少女は死神で、
 私にとっては、
 魔法使いだった。


 それは夢のような現実

 それは現実のような夢

 とにもかくにもそれが

 私とイフの始まりだった



novel   top next